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Nao Nakai

2021.12.03Story

#平穏大地

サスティナブルなホテル、「ニュー・グリーンピア津南」

本間 大樹

最も高い段丘上にあるニュー・グリーンピア津南

苗場山など長野県境の山並みを背景に、115万坪(約379万平方メートル)の敷地を誇るニュー・グリーンピア津南

 新潟方面から長野方面に国道117号線を走る。清津川を越えてすぐ左方向に向けて入ると、やがて急な細い坂道になる。深閑とした針葉樹林の中、九十九折の坂をしばらく進む。いよいよ苗場山麓の山深く入ったのか。そう思った時、突然、視界が開け、一面、田んぼが広がっている。

 初めてこの地を訪れる人は、おそらく誰もがこの光景に驚くだろう。9段とも11段ともいわれる津南の河岸段丘の中で、もっとも広大な「米原面」は500メートルほどの高地にある。その平面の真ん中に一本、幅の広い舗装道路がまっすぐ伸び、その彼方に苗場山(2145メートル)の独特の山並みが浮かんで見える。道路の両脇に広がる、区画整理された広大な田畑の光景は、空中都市ならぬ空中田園のようで、まるで別世界だ。

 まっすぐな道をさらに進み、米原面のさらに上、もっとも古いとされる段丘の「谷上面」を登ったところに、ようやく目指していたニュー・グリーンピア津南の建物が現れた。

1985年に建てられたとは思えないきれいな建物
広いエントランス。売店やレストランその他様々な娯楽施設が整っている

 1985年12月1日に営業を開始。すでに35年以上経っているが、白亜の近代的な建物は古さをまったく感じさせない。本館、東館併せて計146室、約600名の宿泊が可能なホテルには複数の大浴場やサウナ、室内温水プールがあり、広いバンケットホールやレストラン、食堂やカフェなどの施設が整う。売店やゲームコーナー、卓球台やボーリング場、体育館などもあり、様々な楽しみ方ができる。

 ホテル自体も大きいが、特筆すべきは広大な敷地と、そこにある様々な野外施設だろう。115万坪(約379万平方メートル)、東京ドームが81個も収まってしまう広大な敷地。そこにグラウンド、スキーゲレンデ、キャンプ場、グランドゴルフ場、テニスコート、フィールドアスレチック場、ゴーカート場だけでなく、釣り堀や池、ブナ林や自然観察の森など、あらゆる野外施設が整っている。

 もはや宿泊施設というより、一つの大きな公園であり総合的なアミューズメント施設なのだ。

リゾートを脱して、自然とジオの体験施設へ

 自然環境に恵まれた、標高約600メートルにある広大な施設の誕生は、そもそも田中角栄の日本列島改造論に基づく、国土開発の歴史にまでさかのぼる。1975年、厚生省(当時)の所管である年金福祉事業団により、年金基金を財源としたグリーンピア事業が立ち上がった。年金基金の潤沢な資金などにより、全国13か所に大規模保養施設が作られることになった。

 グリーンピア津南もその一つだが、その後バブル崩壊と少子高齢化など社会構造の変化に伴い、多くの施設が経営悪化に陥った。同時に年金問題や構造改革の波が襲い、当時の小泉純一郎首相により2005年までにグリーンピア事業の廃止が決定された。そして各施設の地方自治体などへの払い下げが行われた。

 津南町は、施設を何とか生かしたいという多くの町民の願いを受け、公設民営の施設として再生するべく模索。その結果、2005年10月、株式会社津南高原開発が津南町から運営を委託され、ニュー・グリーンピア津南として再生したのである。

 時代の移り変わりの中で、施設の意義は大きく変わってきた。津南高原開発の代表取締役社長の樋口明氏は、「単なる宿泊、アミューズメント施設ではなく、津南の自然と触れ合う体験型の施設にしたい。その中でジオ的な視点で、自然と人間の暮らしのありかたをもう一度見直すきっかけになれば」と話す。

 高度経済成長からバブルまでの時代の、華やかなで大規模なリゾート観光はもはや前時代的なものとなった。恵まれた自然環境の下、利用者が自然と交流しながら環境と融和した生き方を探る。個々人が、いわゆるサスティナブル(持続的)な生き方や考え方を体感する場として、同施設は大きく変わりつつある。

1万年の縄文文化の空気感が漂う津南の大地

 自然とジオの体験と意識を高める上で、ニュー・グリーンピア津南はまさに最適な立地だろう。2014年7月、長野県栄村から中津川、志久見川が信濃川に流れ込むまでの範囲が、「苗場山麓ジオパーク」として認定された。じつはこの辺りは、200万年以前は深い海底だった。当時日本列島の中央部にはフォッサマグナと呼ばれる、6000メートル以上もの深い溝が南北に走り、日本列島は東西の二つの島に分かれていた。その溝の間は海だったのだ。それが200万年くらい前、激しい地殻変動によって隆起を始めた。海底だった深い溝はいまや富士山や南アルプスなど、日本で最も高い地形になった。同時に現在の日本列島の形が出来上がった。

 急激な隆起によって持ち上がった山並みは、信濃川とそれに流れ込む中津川、清津川の急流によって削られ、大量の土砂が扇状地となって広がる。その扇状地が川の浸食と大地の隆起によって形を変えたのが、津南独特の地形である10段にも及ぶ河岸段丘だ。

 冬になると積雪が3メートルを超えることが当たり前のこの地は、高台であるにもかかわらず水に恵まれ、1万年以上も前から縄文人の一大拠点となっていた。河岸段丘上には今なお多くの縄文遺跡が発掘され、火炎式土器など彼らの生活の痕跡が多く見つかっている。

 太古の昔から、この雄大でダイナミックな自然と向き合い、豊かに共存してきた人たちがいた──。1万年以上も続いたとされる縄文文化こそ、まさに私たちが見失いがちなサスティナブルな生き方の原型なのだ。津南の河岸段丘の地には、その空気感が長い歴史を超えて漂っている。

3メートルを超える深い雪に覆われる津南の河岸段丘。たっぷりと降った雪が、多くの恵みをもたらす

〝ジオ〟を体感できる稀有の施設として

 その苗場山麓ジオパークのど真ん中に位置するのがニュー・グリーンピア津南だ。最上段の段丘上に位置する建物からは、津南の山並みと河岸段丘が一望できる。さらにホテルから車で5分ほど登ったところには「ニュー・グリーンピア津南展望台」がある。ここはジオパークのビューポイントとして認められ、「谷の展望台」とも呼ばれている。ここからは中津川を挟んだ対岸、見玉公園の柱状節理の崖が見える。苗場山麓ジオパークのジオサイトの一つである通称「石落し」だ。溶岩が冷えることで細長い亀裂が入り柱が幾本も立っているかのような岩になる。日本のグランドキャニオンとも呼ばれる、浸食によってむき出しになった柱状節理の巨大な壁は壮観だ。

 右に目を向けると龍ヶ窪のある赤沢台地、さらに信濃川の向こうの松之山方面の山並みまでがパノラマのように見渡せる。そして目を左に転じると、晴れた日にははるか彼方に妙高山の頂が浮かんで見える。

 同社の副社長でニュー・グリーンピア津南の女将でもある石原昌子氏は、「この展望台周辺を巡りながら、高原の木々や草花といった自然に触れ合うことができるトレッキングツアーを、県内外の小中学生などを対象に行っています。苗場山麓ジオパークと連携しガイドや学芸員を招いて、自然と大地の生きた勉強ができるプログラムとして活用してもらっています」と話す。

ニュー・グリーンピア津南展望台(谷の展望台)から眼下に見玉集落とその上にそそり立つ柱状節理の崖、「石落し」がよく見える。その先は松之山方面の山並み。左手、はるか向こうに妙高山のかすかに雪を抱いた山頂が見える

 中央公園を歩くと、付近を流れる小川に沿った遊歩道沿いに、根元に名札が立っている小さなサクラの若木を目にすることができる。前出の樋口さんは言う。「これは6年ほど前から始まった、サクラの植樹活動によるものです。毎年5月、「津南千本さくら植樹祭」が行われ、日本さくらの会から贈られた桜の若木を植樹します」。

 すでに5000本ほど植樹されているという。これが大きく育てば、やがて付近一帯は春になれば一大桜の名所になるだろう。

「津南千本さくら植樹祭」によって植樹されたサクラの若木

 その桜の木の近くに、最近できたのがグランピング施設だ。営業チーフの中島裕貴氏が中心となって進めた。

 「まずは資金の確保のため2021年の4月にクラウドファンドを立ち上げました。多くの人の賛同を得て出資いただき、400万円超の資金が集まりました」

 早速、工事に取り掛かったが問題が起きた。新型コロナの影響で木材の調達が難しく、工事の続行が危ぶまれたのだ。「そこで津南の森林組合に相談し、津南で伐採した樹木を加工して使うことになりました」と、樋口氏は話す。そして中島氏はじめスタッフが製材加工を行ない、5つのグランピングの棟を自分たちの手で組み上げた。

 「まさかこんなことまでするとは思いませんでしたが、いい経験になりました」と中島さんは笑う。まさに津南の自然を利用した手作り施設。それがまた自然環境と融和的なサスティナブルな同ホテルの特徴を映し出している。

2021年にオープンしたグランピング施設。組み立だけでなく製材までホテルの従業員が行った、まさに手作りの施設だ(提供/㈱津南高原開発)

ホテルの水はすべて敷地内の井戸と湧水を利用

 じつはニュー・グリーンピア津南で使用されている水は、すべて敷地内の井戸や湧水を利用したものだ。石橋氏は、「津南の水は美味しいと言われますが、ここの水は中でもとくにおいしいと断言できます。その水で作る料理も、自信を持って提供させていただいています」と話す。

 冬の間、苗場山麓に降り積もった雪がかつての苗場山の噴火の溶岩流や堆積したローム層で長い時間かけてろ過され、清らかな伏流水となって地下を流れる。外気にも触れず、一切汚されることのない純水──。その水を最も上流で一番最初に汲み取っているニュー・グリーンピア津南は、日本で最もおいしい水が飲めるホテルと言っても過言ではない。

 飲料用だけでなく、この巨大な施設のすべての水を、水道水を一切利用せず、自前で賄うことは他の場所では考えられない。水に恵まれた津南という土地柄だからこそ可能なのだ。

敷地内で農作物も作り提供する

 さらに、最近では広い敷地と豊富な水を利用して、数々の農作物を作っているという。津南の名産である「雪下ニンジン」もその一つ。雪下ニンジンは深い雪の下で越冬させる。植物の細胞は寒さに耐えるため、グルコールを糖に換える。それが独特の甘さとなる。

 苗場山麓ジオパークの佐藤雅一氏は、「細胞は0℃を下回ると凍って破壊されてしまう。その点津南の湿潤な雪下は0℃以下にはならず、適度に『暖かい』。東北の寒冷地のパウダースノーでは難しい。この地域の雪と気候だからこそできる作物です」と説明する。

 できた雪下ニンジンはホテルで料理として提供するだけでなく、オンラインショップでも販売する。その他、ダイコンや白菜、サツマイモや各種夏野菜も栽培している。

 「その農作業も、私たち若いスタッフが中心になってやっています」というのは前出の中島氏だ。フロントでネクタイを締めて対応するいっぽうで、長靴に作業着で農作業に励む中島さんら若いスタッフの姿もまた、同ホテルならではの光景だろう。3月から4月中旬には、「雪下にんじん掘り体験」も行われている。

 

 雄大な自然の下、その力と恵みを理解し存分に生かしながら、できる限り自分たちのことは自分たちでやる。まさに縄文的な生き方と生活を体現する、サスティナブルな体験施設として、ニュー・グリーンピア津南は他のホテルとは一線を画しているのだ。

敷地内の畑にて雪下ニンジンを採る中島裕貴氏。スタッフは営業や接客だけでなく、まさに何役もこなす
氷点下にはならない絶妙な「温かさ」の津南の湿った雪が、糖度を上げておいしい雪下ニンジンが生まれる

本間 大樹

ほんま たいき|1963年、新潟市生まれ。早稲田大学を卒業後、東京の出版社で単行本や雑誌の企画・編集に携わる。2007年独立し、フリーの編集兼ライターとなる。2012年、Uターンして新潟市の実家に拠点を移しながら活動を続ける。現在、単行本の執筆、地方新聞の企画記事作成と共に、新潟市安吾の会に属し、企画運営を行いながら様々な文化活動を行う。主に新潟・佐渡を中心にした文化・歴史の取材、記事作成に携わりながら、あらたな地域の可能性を探る。

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